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シンガポールのメード事情

 先月の日本への里帰りの間、多くの方から「留守の間、子供はどうしているのですか?」と質問を受けました。メードがいますから、と答えますと皆さん一応に驚いた表情で「シンガポールではメードを雇うのは普通なんですか。」「いくらぐらいかかるんですか。」と聞かれました。

 そこで、今回はシンガポールのメード事情についてお話ししようと思います。シンガポールでは、約12.25%の家庭(おおよそ8軒に1軒)がいわゆるステイ(同居)のメードを雇っていると去年の労働省発表の統計に出ています。この数はステイのメードだけに限られていますから、通いのメードも含めるとメードを雇っている家庭の割合はもう少し高くなるのではないでしょうか。

 
インドネシアのメードさん達。真ん中が私の家
で働いてくれている28歳のSumiさん。
シンガポールには「男女雇用平等法」などはありませんが、働く女性の職種、給与、待遇など男性と同じで、結婚、出産に関わらず、女性が働き続けることは普通です。17、8歳になると男性に2年半の兵役があること、その後40歳まで毎年一回一定期間兵役に戻らなければならないことも、働く女性が多い理由にもなっています。その反面、日本のように乳児から預けられる託児所的施設が皆無で、乳児を預けられる両親などがいない家庭では、ステイのメードを雇い子供を任せるのが一般的となっています。

 私もメードに子供の世話を頼み、長い間働いて来ました。一日12時間、13時間労働が続いた頃もありましたが、メードがいてくれたおかげで安心して働くことができました。メード達の一日の仕事は朝食の準備から始まり、洗車、掃除、洗濯、アイロンがけ、昼食、夕食作り、後片付け、子供の世話、全て任されます。そうしてシンガポールの女性達は男性と同じ労働量、質、内容、責任をこなします。ステイのメードとして労働に付いている女性達は、ほとんどがシンガポール近隣諸国からの所謂、出稼ぎ労働者です。

 シンガポールで就労している外国人メードの数は、現在、約14万人で(シンガポールの総人口は約400万人)、インドネシア、フィリピン、スリランカの順で占められています。メードを雇うには、メード斡旋業者に依頼するのが最も安全で簡単な方法です。メードへの月々の給与は、国別で多少の差がありますが、私の家で働いているインドネシア人メードには月々シンガポールドルで270ドル(約2万円)払っています。それに外国人雇用税350ドルが月々義務付けられていますので、メードを雇うには一カ月合計620ドル(約4万5千円)必要となります。

 日本円に換算すれば、僅かな月収ですが、本国で同じ職種で働く10倍の収入を得られるとあって、シンガポールに出稼ぎに来る若い女性達は後を断ちません。メードの雇用は契約制で基本的に2年間となっています。今、私の家で働いてくれているメードは一度シンガポールで2年間働いた経験のある人でした。2年間働いたあとインドネシアに帰り、未亡人である母親のために6部屋ある家を建ててあげたのだそうです。今回私の家で2年半働いて、来月インドネシアに帰るのですが、もう一軒今度は自分のために家を建てるのだそうです。家を建てたら見に行く約束をしているのです。私は今回、運良くとても良いメードにめぐり合うことができましたが、いつも良いメードに来てもらえるとは限りません。

 メードを雇う上での悲喜劇、問題、メード側から見る問題など、メード雇用にまつわる話しはシンガポールでは数尽きないのですが、長くなりますから又の機会に回しましょう。今はまだ安い費用でメードと言う職種の人達に頼って女性達は社会進出を果たしています。この先、近隣諸国の経済が発達し出稼ぎの必要がなくなった時、シンガポールの若いカップルの子育て、女性の社会進出はどうなって行くのだろうと、私の子供達の今後を心配しているこの頃です。